スコット・ラッシュ「再帰性とその分身」/2

【2】行為作用か? 構造か?(Agency or structure?)
【2-0】〔01〕‐〔03〕
221-222

  • 再帰的蓄積」とでも称しうる経済成長
  • agencyが規則に縛られたフォーディズム的構造からみずからを解放できるばあいにのみ蓄積が可能になるという意味で、構造は、事実上agencyが意のままに作動することを強いていく
  • 特化する消費→企業の革新→柔軟性と多くの問題→知識の集約を必要とする→知識の集約は必然的に柔軟性をともなう
  • 知識の集約は、規制による労働者の他律的監視が自己監視にとって代わっていくという点で、自己再帰性をもたらす

222-223

  • なぜ再帰性を見いだすことができる場所もあれば、そうでない部門もあるのであろうか?何百万もの「ジャンク・ジョブ」の創出について、大量の「マクドナルド・プロレタリアート」の創出についてはどう考えたらよいのであろうか?
  • 再帰性の勝者」とともに多数の「再帰性の敗者」が現実に存在するのであろうか?
  • こういった再帰性の構造的条件は、I&C構造の全地球規模に拡がるネットワークと局域的なネットワークが接合された網状の組織である……再帰的モダニティにおける生活機会は「情報様式」(生産様式ではなく)におけるagencyの位置づけに依拠する

【2-1】再帰的生産――労働者階級の地位向上(Reflexive production: upgrading the working class)〔01〕‐〔13〕
225-233

  • 情報構造は、ひとつには情報が流れていくネットワーク化された経路と、もう一つは情報処理能力の獲得がおこなわれる空間から成り立っている
  • 再帰的生産は、情報の流れと知識(あるいは情報処理能力)の獲得が最適水準に及んだ時にのみ可能となる
  • 情報構造にたいする制度的支配のあり方によっては、再帰的生産に適しているものもあれば、適していないものもある
    • 適しているもの:日本の「協調主義的」な情報構造の管理・関係性を重視した契約・下請け企業と親会社の労働者が共有する同じ帰属意識・融資家と産業家の間での意味や「世界」の共有共有するアイデンティティの象徴的交換。ドイツの生産システムの協調主義的管理={工科大学・団体交渉機構・職業訓練生制度}
    • 適していないもの:英米の市場原理にもとづく管理・互いに対等な立場での契約・有形的、象徴的やり取りの欠如や信頼関係の欠如・合理的選択理論なり新古典派

233-234

  • ここで問題になるのは、再帰的近代化ではなく、「再帰的伝統遵守」の過程である。再帰的共同体の問題。
  • このような伝統遵守は、結局のところ再帰的である

【2-2】再帰性の勝者と敗者――(新たに生まれた)新中間階級とアンダー・クラス(Reflexivity winners and reflexivity losers: (new) new middle class and underclass)〔01〕‐〔12〕
234

  • 前近代的な、また共同体的かつ伝統的規制形態は、再帰的生産の構造的条件となる情報の流れや情報の獲得に寄与しうるものである

235

  • 共同体的規制が、【生産システムにおける】I&C構造の活動領域や権力にとって最も望ましいものであるとすれば、個人化された(また、市場原理にもとづく)規制は、【消費システムにおける】I&C構造の活動領域や権力にとって最も望ましいものとなろう

236

  • (専門家システムという)高度に発達したサーヴィス業で活動している労働力の割合は、英国系の国々のほうが協調主義の国よりも二倍ほど高くなっている。英米の世界でこのように高度に発達したサーヴィス業の職務に就いている人びとの半数以上は、消費者サーヴィス産業で活動しているが、他方、協調主義の国々では、圧倒的多数の人びとが、生産者サーヴィスで活動している

237-238

  • 組織化された資本主義の消滅の結果、再帰的労働者階級は、次の3つのかたちでI&C構造と結びついている
    • (1)新たに個別化された消費者として
    • (2)情報化された生産手段の利用者として
    • (3)消費物資や生産物資の生産者として
  • 単純的モダニティにおける新中間階級は、工業資本蓄積の添えものとして規模の面で拡大していったが、再帰的モダニティでは、(新たな)新中間階級が創出されてきた。→新たな蓄積原理から発達した仕事の場=資本の蓄積が同時に情報の蓄積

239

  • I&C構造への接近利用権から徹底的に排除された、再帰的モダニティにおける三つめのパラダイム階級が存在する
    • 再帰性の勝者」=ポスト工業社会の中間階級と、地位向上をみた労働者階級
    • 再帰性の敗者」=単純的モダニティの古典的プロレタリアートから格下げされた三つめの階級=「アンダー・クラス」

240-242

  • スラム地区。東ヨーロッパ、とりわけ東部ドイツやポーランド
  • →少年非行グループの深いきずなや(サッカー場の)立見席、人種的暴力なり人種差別暴力
    • 自己モニタリングが生れていかない。他律的モニタリングも自己モニタリングも行われないだけでなく、モニタリングがほとんどなされていない

242

  • 社会構造の地盤沈下とagencyにたいする自由という自己決定の増大は、再帰的モダニティにおけるすべての階級が経験している。こうした社会構造がI&C構造に置き換わっていないのは、アンダー・クラスのばあいだけである。

244

  • この新たな下層階級を生み出す様式は三つある:
    • (1)労働者階級からの下降移動
    • (2)数多くの移民
    • (3)I&C構造からの女性の組織的な締め出し

246

  • 最も大切なのは、スラム街を、また女性たちを、情報コミュニケーション構造から締め出さないための個別的な方策を講ずることである