東郷雄二,2001,「定名詞句の『現場指示的用法』について」『京都大学総合人間学部紀要』第8号:1-17

これも実は。

Kaplan (1989) はその直接指示理論の一部として、Context of use と Circumstances of evaluation (以下「値踏みの場」)を区別することを提案した。この理論では I, you, he, here などの一群の記号は indexical「指標詞」と呼ばれていて(14) 、その指示はContext of use によって決まるとされている(15) 。Context of use とは、おおまかに言えば、話し手が特定の時点・特定の場所において行なう一回一回の発話行為をさす。例えば I のような代名詞のさすものは、一回ごとに異なる。この指示を決定するのが Context of use である。

 一方、値踏みの場は、命題の真偽と、命題中で用いられた単称名辞の指示が決定される特定の状況をさす。わかりやすいものとしては、反実仮想 counterfactual などの可能世界があるが、これ以外にも、あるものが取りうる可能な状態、世界の歴史、時間などがあるとされている(16) 。


(14) Kaplan が indexical と呼んでいるのは、 Russell が “egocentric particular”、Reichenbach が “token reflexive” と呼んだものであり、言語学ではJakobson が“shifter” と呼んだものに相当すると考えてよい。I/you などの人称代名詞、here/there などの直示的副詞、today/yesterday などのように発話の現在を起点とする時間表現がこれに含まれる。