ヤーコブソン『一般言語学』

索引:

転換子
149,152,153,154,155,157,158,159,170

引用:
これはid:contractioさんのところからかっぱらい。

指標index的象徴、特に、人称代名詞は、フンボルトに基づく伝統においては、言語のもっとも基本的・原始的な層に属するものとされているが、そうではない。それはコードとメッセージとが重なり合う複雑な範疇なのである。したがって代名詞は、小児言語では遅く習得され、失語症においては早く失われるものに属する。I(あるいは you)は、異なる主体の間欠的*1な同一機能を示し、その一般的意味を定義するにあたって言語学者でさえ困難に遭遇したといことを観察するならば、自分自身を自分の固有名と同定することを覚えた子どもが、人称代名詞のように、話し手から話し手へ移行しうる*2用語に慣れるのは容易ではないだろうことは明らかである。 子供は、相手から you と呼ばれているときに、自分自身について一人称で話すことには気おくれするかもしれない。子供は、ときどきこれらの呼称を配分しなおそうと試みる。たとえば、子供はこんな風に言って、一人称代名詞を自分だけ占有しようとする:“きみ は自分のことを ぼく と言ってはいけない。ぼく だけが ぼく で、きみ はただ きみ なんだ”。あるいはまた、子供は I か you のどちらかを発信者と受信者の両方に無差別に使い、その結果、この代名詞は対話の当事者のどちらをも名指すことになる*3。最後にまた、子供は I を厳密に自分の固有名のかわりに使い、その結果、自分のまわりの人の名前はすぐに言うけれども、自分自身の名前を言うことは頑固に拒絶するようになる:名前はその幼い所有者にとっては、単に呼格的意味を持つにすぎず、I の主格的機能に対立する。こういった態度は、幼児期の残存物として、後まで残ることがある。(153-4頁)