Taking あんた死ぬわよ Seriously

教えられて初めて知ったのだけど、ぼくは木星人(+)で寅年生まれだから霊合星人なのだそうで、さっそく『木星人の運命』と『霊合星人の運命』を買って読んだ。

細木数子の著作って5300万部売れてて、「占い本世界一」としてギネスブックに掲載されてんだってね。5000万て。

「唯一の」オフィシャルサイトはhttp://www.6sei.net/pc/index.htmlだそうだけれど、http://book.matrix.jp/book/http://6sei.opal.ne.jp/hosoki/http://www.pinkvalley.com/fortune/html_labo_6sei.htmlなどのほうがgoogleでは上にくる。

無料で六星を計算できるということでhttp://book.matrix.jp/book/が良く使われているようですが(ただし陰陽が判別されないので初心者は使えない)、占い結果の記述内容まで著作と一字一句同じというのは驚きですね。しかもトップページには「All rights reserved」と。ひょっとして本人? いそいそとアフィリエイトにはげんでいたら面白いですね。

木星人の運命』(9/100)

さて本書の内容ですが、まずいったい自分はどの本を買えばよいのか?という問題が生じるでしょう。「六星占術」というぐらいですから、「六星」*1あって、自分が「何星人」かがわからないとどの本を買ってよいのかわからない。
上記のサイトで「何星人」かまではわかりますが、陰陽(+/ - )がわからないので、書店に行きましょう(計算方法が書いてあるサイトもあるかもしれません)。表紙をめくると自分の生年月日から運命星と陰陽を知るチャートがあります。どの本でもよいので調べてみましょう。ちなみに太陽暦に基づいていますので、太陰暦に自分で変換する必要はありません。
このシリーズ、42ページまではすべての本、同じです。
ぼくは昭和49年3月6日生まれなので木星人、寅年生まれなので陽(+)です。
冒頭でもいいましたが木星人(+)で寅年生まれだと、『木星人』かつ『霊合星人』ということになります。霊合星人はややこしいので次項で触れます。
木星人(+)は、昨年〈乱気〉で「中殺界」でしたが、今年は〈再会〉で幸運期です。ちなみに来年は〈財成〉、再来年は〈安定〉で、今年からの3年間が非常によい波、ということになります。ついでに、その後3年間は、〈陰影〉〈停止〉〈減退〉と「大殺界」に入り、非常に悪い波に入ることになります。
六星占術は、年ごとの運勢だけでなく、月ごと、日ごと、さらに一日の間の時間の波まで占うことができます。たとえば3月の木星(+)は〈減退〉、3月1日は〈陰影〉です、非常に悪いですね。ちなみに六星占術の運命周期は12あって、その順番はどの星でも変わりません。つまり3月1日からぼくは3日間最悪(陰影→停止→減退と続くので)、ということになります。

★(霊合星人にはコレだけでは意味がないので評価できず)

『霊合星人の運命』(10/100)

さて、霊合星人、ですが、自分の占命盤(表紙をめくると自分の運命星の占命盤がついています)をみて、自分の干支が〈停止〉の位置にある場合、その人は「霊合星人」ということになります。霊合星人がなぜ出てきたのかについては、研究サイトでもよくわからない、とされています。
とにかく、霊合星人はめちゃくちゃでとらえどころがない、のだそうです。運命にもてあそばれるとも書いてありました。
その理由は、占命盤の対抗位置の運勢から強く影響を受けるからだそうです。たとえば〈停止〉は最悪の大殺界ですが、その対抗位置にあるのは〈達成〉で、最高の幸運期です。といっても、単純にプラマイゼロになって、何事も起こらない、というのではなく(そういう場合もあるようですが)、午前中にものすごくいいことがあって、午後にものすごく悪いことがあり、夜にものすごくいいことがあるとか、あるいは命を落とす危険があったのにうまくその危機を逃れられたり、逃れられずに死んだりするそうです。
霊合星人のめちゃくちゃな運命はよくわかりましたが、じゃあどうすればいいのかって、その肝心のところがわかりません。細木数子にもわからないそうです。
自分が霊合星人であることはちょっとうれしかったりもしますが、「霊合星人である有名人」が、中西一善だったり新庄剛志だったりして、あまりうれしくない気もしました。
自殺したhide、伊丹十三沖田浩之松宮一彦、急死した久和ひとみナンシー関、などの名前が列挙されると、いくら「あんた死ぬわよ」がキャッチフレーズの細木センセの本でも、なんかガックリきちゃいます。

★★(霊合星人というアイディアは面白いけどあまりうれしくないので)

六星占術の機能は?

研究サイトでは、「四柱推命でいう空亡の部分を取り出した占術」ということになっています。かなり大雑把な、つまり使いやすい占いということになりますね。
宮台真司氏は占いの機能を、[1]潜在化している選択肢を顕在化する機能(「選択肢の構造化」による「反省チャンスの提供」)及び[2]すでに顕在化している選択肢への背中押し機能(自力で選ぶという重荷を回避できる)――の二つに整理しています(『これが答えだ!』Q52〔ISBN:4022613777〕)。
占い一般についてはそのように言うことができると思いますが、では多数ある占いの中で、六星占術はどのように自己卓越化(自他区別)しているのでしょうか。
ひとつには、12星座占いに似た単純さと、運命数を用いた「一見」複雑な運命星の導き方の融合に、フックがあるのではないかと思います。
一度自分の運命星がわかってしまえば、あとは簡単なのですが、かといって、あらゆる雑誌の占いコーナーに「今月のあなたの運勢」として六星占術が採用されるということはないでしょう。あるかもしれませんが。
もうひとつは、毎年必ず「死んだ人」の運勢を、このシリーズ冒頭に掲載する「不安煽り型」占いだという点にあるでしょう。今年度版は自殺したポール牧と急死した中尊寺ゆつこが挙げられていました。
細木数子の「不安煽り型」のスタイルには反発をおぼえるお茶の間のおばちゃんも多いようですが、ぼくは必ずしも悪くないと思います。
たぶん不安に煽られないと、「あの年の自分の運勢はこうだった」という反省に動機づけられないのではないかと思うからです。
いわば、「質的調査」のインタヴュアーや、物語療法のカウンセラーに、自分語りをするように、占命盤に向って「あたってる!」とか「あたってない!」と、ライフコースの反省的構造化を行うようなものです(当然ですが、「当たっている/当たっていない」は、両側とも機能的に等価です。細木数子の占いがいかに「当たらないか」をあげつらっているサイトは多くありますが、これはいかに「当たるか」をあげつらうことと等価だといえるでしょう)。
「そもそもライフコースを反省的に構造化する(そして納得する)必要はあるのか」という疑問もあるでしょうが、そのような需要が現在ある、ということが重要であって、そのような需要がなくなれば、「必要」もなくなるのではないでしょうか。「高齢化社会」で、そのような「ライフコースの反省的構造化」の需要が高いことは納得がいくことですし、機能的代替物(臨床心理士相手のカウンセリングなど)は保険もきかないこともあって、高価なので、安価な占いの需要はますます増えると思います。
(3386字)

*1:土星、金星、火星、天王星木星、水星。