システム理論はアナロジーでもメタファーでもない。

社会学の学問領域を超えているこうしたオリエンテーションは、還元主義的な手続きによって、社会秩序が心理学的事実、生物学的事実または物理学的事実に帰せられてしまうということを含意しているのではない。言い換えれば物理学的アナロジー、生物学的アナロジー、または心理学的アナロジーを用いて、あるいはしかるべきメタファーによるレトリックを使用して、社会秩序のあり様が論証されるということが、こうしたオリエンテーションによって意味されているのでは断じてない。社会学以外の学問において最初に用いられた諸概念が使用されるばあいに、こうした非難がまさに社会学者から頻繁にくりかえされており、それはまるで条件反射のようである。とりわけ「オートポイエシス(Autopoiesis)」概念のばあいがそうである。しかしながら、そうした非難は、本書で提示されている理論そのものが理解されていないことを物語っている。というのも、この理論は、まさしく徹底したシステム相対主義を主張しており、アナロジーによる推論のさいに前提されなければならない、リアリティの存在論的連続をことごとく排除しているからである。そんなわけで、生体の細胞の水準においてオートポイエシス的な再生産、オペレーションの閉鎖性、あるいは進化などが存在しているがゆえに、社会システムにおいてもそうした諸構造が存在しているはずだということが、本書で論証されているのではない。本書では、この種の事態がはたして社会システムにおいても立証されるかどうかが問われているのであり、その結果として、生体の秩序においても、また社会秩序においても実現されている、きわめて一般的な構造が、本書のテ‐マとなっているのである。こうした一般的な構造が生体システムにおいて最初に発見されたということは(プロセスという範疇が法学で最初に、ついで化学において発見されたということと同様に)、科学の歴史にとっては偶然なのである。とりわけ社会学が科学的な学問として自立したのがごく最近のことであるという事情のゆえにそうなのである。
日本語版への序文:iv頁]

社会システム理論〈上〉Soziale Systeme: Grundriss einer allgemeinen TheorieSocial Systems (Writing Science)