ジェームズ・ワン監督『SAW』[2004年・米]

この映画のもっとも大きな欠点は、すべての出来事を知る超越的他者が作品の最後に作品内に登場してしまうことだ(その時点で他者が消える)。
ストーリーはある密室を【中心にして】展開するが、時間と空間は記憶や回想がもちいられることで錯綜する。それゆえに厳密な意味での「密室劇」の期待は裏切られる。だが、記憶や回想、出来事の意味づけは、この密室に閉じ込められた男二人に関連付けられた枝葉であり、「錯綜」した時空自体が【この密室】に固く結び付けられている。
この作品の良く出来ている点は、【中心】である【この密室】が、固定されたローカルな、不動の一点であるにもかかわらず(というかそのことによって)、時空と出来事の意味・意義・相貌がめくるめく変貌していく――真理の決定は常に延期・遅延されていく――というやり方・やり口を一貫した緊張感で最後まで止めないことにある。ベンヤミンの「歴史哲学テーゼ」との連想でいえば、歴史記述が永遠に不可能であるかのように、出来事が展開していく。
だが作品のラストシーン、まさしく【この中心】がすべての出来事を確定する超越的審級であったことが明らかとなる。
「欠点」と述べたが、ケーブルテレビとビデオ産業でカタルシスのパッケージを分配する市場においては、やはりこの超越的審級の大安売り分散送付こそがうってつけであり、なんの驚きもなしに「佳作」の評価を下さなければならない。

評価:★3つ半。

SAW ソウ DTSエディション [DVD]

SAW ソウ DTSエディション [DVD]