ファインディング・ニモについて

「父の深い愛情」がテーマになっている。ニモは父子家庭の子供で、父の禁じる「外界」への侵出の結果、人間に捕まってしまう。ニモの父はあきらめることなく、危険を省みず、「父の深い愛情」をもちいてニモ探索の旅に出る。途中知り合うメスの魚が、この父に、「at homeが欲しい」と泣き崩れるところでこの映画のイデオロギーが披露されることになる。
「母の深い愛情」ではないことによってこの映画は現代アメリカ社会における政治的正しさを教えてくれる。「母は産む、だから、母は育てる」という自明性に頽落したテーゼの、【だから】という接続詞に宿るイデオロギーに批判的であることによって、政治的に正しい家族のあり方を示す。
 この映画は「父すること」をテーマにしている。fatheringAmazon検索すると56件ヒットする。この映画では臆病で過保護で子供じみた父親像を描いている。この父親がたどる冒険の軌跡を、母親がたどってみたところで、それはありふれた「強い母」を繰り返しているだけである。
 しかし「画期的」であるといえるのはここまでである。この映画はあくまでも「at home」の内部にとどまっている。たしかに「familiarity」を描かないことによって、はやりの「ポスト・ファミリー」のあり方を示す。しかし、逆説的に、強烈なまでに「at home」を希求することによって、これはいわばアメリカの家郷性を強調しているのである。