『社会の芸術』(1995)

第一章 知覚とコミュニケーション:形式の再生産について VI 区別としての形式

  • マークされない状態/マークされない空間


(63) Stephan Mussil, Literaturwissenschaft, Systemtheorie und der Begriff der Beobachtung, in: Henk de Berg / Matthias Prangel (Hrsg.), Kommunikation und Differenz: Systemtheoretische Ansatze in der Literatur- und Kunstwissenschaft, Opladen 1993, S.183-201は、正当にも次のように示唆している。あらゆる区別に先立つ世界と(スペンサー=ブラウンにはこの概念が欠けている)、《マークされた空間》から分離されることによって成立する《マークされない空間》としての領域が区別されねばならない、と。さしあたりスペンサー=ブラウンが必要としているのは、《マークされない空間》概念のほうである。彼にとってそれは、マークされた空間からの横断によって到達できるものを指し示しているのであり、算法という目的のためにはそのように限定しておけば十分だろう。しかしだからといって、さらに世界状態についても問うことまでもが排除されるわけではない。//世界状態は《区別を設けよdraw a distinction》という指令によって開示される。あるいは(同じことだが)マークされた空間とされない空間という区別の統一性について問うことによって開示されるのである。スペンサー=ブラウンはこの点を算法の後の段階で、《書かれざる囲いunwritten cross》という概念を通して考慮に入れている(a.a.O. S.7〔大澤/宮台訳『形式の法則』朝日出版社、八頁〕。なおこの点に関しては、Matthias Varga von Kibed / Rudolf Matzka, Motive und Grundgedanken der ≫Gesetze der Form≪, in: Dirk Baecker (Hrsg.), Kalkul der Form, Frankfurt 1993, S.58-85(69f., 77)も参照)。またヘーゲルによる「有限者の反対物としての無限者/真無限」という区別をも参照されたい(Vorlesungen uber die Philosophie der Religion I, zit. nach Werke Bd. 16, Frankfurt 1969, S.178f.〔木場深定訳『宗教哲学 上巻』(ヘーゲル全集十五)岩波書店、二〇五頁〕)。われわれは今後このふたつの概念を分離しておけるよう、区別を含まない世界状態について考えている時には「マークされない状態」という言葉を使うことにしたい。それに対して「マークされた空間」の反対概念を意図している場合は「マークされない空間」と言うことにする。(S.51-52)