『社会の法』

(1)(2)(1993)

固有値 Eigenwerte
106,125,633,671,674,682,711


訳注[16]
サイバネティクス学者ハインツ・フォン=フェルスター由来の概念。システムの諸作動が回帰的ネットワークを形成する中で、一時的に安定した状態が達成され、それが以後の作動の出発点として用いられるようになったとき、その状態を固有値と呼ぶ。たとえば学システムにおいて「公理」や「データ」は議論の出発点として扱われる。しかしそれは内因的価値のゆえにではなく、事実として後続する学的議論の前提として扱われている限りのことである。逆にそうである限りそれらは学システムの固有値であり続けることになる。(『社会の学』S.418)

第二章 法システムの作動上の閉鎖性 VIII

  • 各機能システムは、システムの統一性を産出することができるようなシンボルを用いている。
  • シンボルは作動に作動を結びつける。
  • 重要なのは、作動の多様性においてなおシステムの統一性を確保し、再生産すること。
  • 法システムにおいてこの働きを担うのは、法の妥当というシンボルである。
  • 貨幣の場合と同様に、妥当というシンボルは内因的価値をもたない。
  • 妥当している法こそが、法的妥当の条件を規定する。


こうも問われなければならないのである。すなわち、妥当という形式は、つまり妥当と非妥当の区別は、どんな機能を担っているのか、と。自己言及的な、作動の上で閉じられたシステムの理論への移行によって、このような理論上の修正が必然的に求められることになる。妥当とは、システムの《固有値》(Eigenwert)である。それは、システム内部の作動の回帰的な実行によって成立するのであり、他のところではけっして生じえないのである。(106)

第二章 X


法に関する予期の特定化は、まず第一に、社会の記憶の問題であった。その後次第に、未来において事例を取り扱う際に前提として保持されるべきものを制限する、という問題へと変化していったのである。……記憶とは何よりもまず、情報への介入を組織化することなのである。……だから、こう言っていいだろう。記憶によって、システムの回帰的生産様式の固有値を用いうるようになるのである、と。(125)


第十章 構造的カップリング VI


……法の自律性が成立するのは、次の点によっているのである。すなわちコンフリクト事例において《法ノ問題》(quaestio iuris)が提起され、その問題が、全体社会にわたる価値コンセンサスを探り出したり確立したりしようとする、絶望的な努力に取って代わるという点に、である。梃となる法の問題を徹底的に吟味し、それへの解答においてできるかぎり一貫してふるまうという課題をめぐって発達してきた概念的・組織的装置から、法の分出が生じたのである。だから法システムの固有値は、構造的カップリングを経ることによってのみ達成されうる。これはすなわち、法システムはその固有値においてのみ刺激されうる、ということである。(633)


法の発展を分析するには、進化理論というはるかにオープンなコンテクストへ移行しなければならないのである。(634)