山内『論文マニュアル』:レベル高ス。

山内志朗、2001、『ぎりぎり合格への論文マニュアル』平凡社新書(14/100)

ぎりぎり合格への論文マニュアル (平凡社新書)

ぎりぎり合格への論文マニュアル (平凡社新書)

5年前の本で、この本が出てから、この本を受けて戸田山本〔NHKブックス 論文の教室 レポートから卒論まで〕が出たりしているのだけど(未読)、稲葉さんの読書ノートで気になっていたので読んでみた:

山内志朗『ぎりぎり合格への論文マニュアル』(平凡社新書)は掛け値なしの名著、ゼミ生には全員買わせる。これさえあれば他の「論文・レポートの書き方」本はもういらない。

(あれ?当時はもうちょっと違うことが書かれていた気がしたのだけど……記憶違いだったのか)

2001年といえばぼくがブチギレて大学から出てフリー派遣社員やってたときで自分には論文を書くことへ向けて切羽詰った動機づけがなくて、友人から「大学受験したいんだけど小論文の書き方でなんかいい本ない?」と相談されてて、小論文対策本を探していたけどこの本は大学受験の小論文向けではないと稲葉さんが書いていて(いや、たしかに書いていたはず。my記憶では)気にはなったけどスルーしたので読まなかったのだった。
「ぎりぎり合格」とは名ばかりで、かなり高いところに目標が設定されている(戸田山本でもそう指摘されているらしい)。内容もエコの『論文作法』〔ISBN:4880591459〕やベッカーの『論文の技法』〔ISBN:4061592483〕などの超定番書で述べられているようなことが、非常にわかりやすく、とっつきやすい文体で(好き嫌いあるだろうけど)まとめられていて、やはりレベルが高い。
形式・体裁に関しては最低水準のことを守ってよ、という当たり前のことが書かれていて、参考になる、のかもしれないが、やはりそこがわりと難しいところでもあるし、とはいえ論文執筆に行き詰まったらこれを読みかえして、いま変な方向に向かってないか・混乱に陥っていないか、ということを確認するための「お守り」として機能する本だと思う。エコの本もそういう本なんだろうけど、翻訳分厚いしね。
いま自分が切羽詰ってるので読んだのですが、背中をもう一押ししてくれるとよかった。

学者の世界は、学閥やら人間関係の対立があって、良い論文であることことよりも、欠点のない方が入選することも少なくない。学者になるには、毒にも薬にもならない、ツマラナイ論文を書けるようになったほうがよい。……情熱と技術の総和は一定なのだろう。だが、やっぱり、大事なのは情熱だ。沈む夕日を目指して砂浜を走り抜ける情熱が一番だ。(32-3頁)

社会学だと一方では某大規模学会のようにツマラナさとpolitical correctnessのみが重視される場所もあれば、学会化するGSRのように青くて熱い情熱の塊みたいな場所もあるというように、極端な気がする(かつ、「多様である」という印象をまったく与えない、という変な場所が社会学*1)。まあどうでもよいことではあるが。
大学学部生にはとりあえず一推しであることは間違いない本でした。
評価:★★★★★

*1:日本の文脈しか見てないけど。