MPEG4のコピーコントロール。

プレゼントfrom hiroさん。

iTMSが開店してから音楽配信やコーデック技術の話題がメディアを問わず盛んになった。
たとえば

は今現在(8/11 14:00)50ブックマークをカウントしている。著作権管理技術DRM(Digital Rights Management)の比較記事だ。

AACiTMS)では「FairPlay」、WMAでは「Windows Media DRM」、ATRAC3(Mora)では「OpenMG

この3種類が、現在、日本の主要な音楽配信サービスで利用されているDRMらしい。
どのDRMにも、消費者側からすれば一長一短があり、ようするに「著作権」という障壁が利便性にとっても立ちはだかる、というわけ。

興味深いのは、Appleに関してだけは、このDRMによる障壁に対する消費者の不満がヒートしがちである、ということか。

iTMSからダウンロードしたしたファイルは、他のDRM使用ファイルと違って、いくらでもiPodに取り込める。また、ファイルの管理方法によっては、PCの買い替えなどをしても、別のPCで再生することができる。これらの点において、他の方式よりもかなり「消費者寄り」のサービスを提供しているように見える、にもかかわらず、である。

ポイントは一点。iTMSからダウンロードしたファイルは、携帯する際にiPod以外の再生機器に取り込めない、という点のみ。

たしかに、「曲」を購入した消費者は、「曲」に金を払っているのであって、特定のコーディング技術に金を払っているわけではない(と消費者は意識する)。Appleの方式だと、消費者は《iTMSiTunesiPod》という特定の再生スタイルを購入させられていると意識させられ、また、おそらくそれはAppleの戦略であると意識させられる(じっさいAppleの戦略であるのだろう)。

こういった「不満」に対して、

これがもしゲーム機だったら「このPS2用のゲームソフトをXboxでプレイできないのはおかしい!なんとかしろ!!」と言ってるようなもんで・・・。

という返しをするのはちょっと変な気もする。

先に述べたように消費者は「曲」、「再現可能な演奏」(といった【内容】)に支払いを行っているので、CDやレコードやカセットテープ(といった【形式】)で購入したそれらを、CDやカセットテープやMDやMP3やWAVやその他自分で発明した録音再生【形式】(パンチカードとか波形を紙に印刷した巻物とか)に落としたり切り刻んだりする「権利」が発生してしまう(「事実」としては不可能でも)。

ゲーム機器の比喩は、ソフトウェアプログラミングがハードウェアに非常に強く依存する(ことがとても多い)ということを消費者が知ってしまっているので、「なんとかしろ!」という不満は、「移殖しろ」(形式を変えて内容を可能な限り再現しろ)という要請になるだろうと思う。

「再現可能な演奏」つまり「曲」は、ハードウェアに依存して作られるのではなく(あたりまえだが楽器には依存する)、あるいはまたコーディング形式に依存して作られるのでもない(あたりまえだがかつては楽譜やMIDIデータには依存していた)。

(楽器が作曲者や演奏家にインスピレーションを与えるように、ハードウェアがゲームデザイナーにインスピレーションを与えたりもするのだろう。)

ようするに、(音楽に関する)コーデック技術は、「曲」を所与として、その再現性をいろんな形式で試してみるという技術にすぎないし、ましてやDRM著作権に技術的にかかわろうとするひとつの試みにすぎない(DRMで/がなければ著作権が守られないという主張〔をする人がいたとして〕は論理的に不充分)。

そこでm4pファイルを、様々な携帯プレイヤーで再生できるmp3ファイルにコンバートするにはどうしたらよいか、という消費者側の模索が始まる、と。

これに関しては、

  • iPod以外の携帯デジタルプレーヤーにiTMSで購入した曲を移す方法はない→×

一度音楽CD(CD-DA)に焼いてからリッピングすれば可能。再圧縮することになるため、わずかに音質は劣化するが、厳密に聞き比べすることでもしなければ分からないくらいの違い(音質マニアは除く)。頻繁に曲を移すのであれば、CD-RWを使うのがおすすめ。

というのがてっとりばやいのだが、さらにてっとりばやくコーデック形式変換をしようと模索するのもこの界隈の常。

の記事とそのコメント欄では、文字通り「m4pファイルをmp3ファイルに変換するテクニック」が紹介されている。

もちろんこの手の記事は、著作権に関する議論も誘発する。ところが面白いのは、「AppleiPodを売らんがためにDRMを導入しているのだ!(けしからん!)」という主張と同時に「Appleはsongを売ろうとしているのであってiPod抱き合わせ戦略など持ってない!」という主張も出てきていること(コメント欄の全部をしっかり読んだわけじゃないから誤読している可能性はある)。

このAppleに対する「期待」ってなんなんだろう?と思う。

そりゃあAppleは企業なのだから、利益を最大化しようとしているに決まっている。音楽配信が活性化して、iPodが売れたら最高!であるはずだ。

「でも、しかし」というわけだ。Appleなのだから、ユーザのことをないがしろにするはずがないだろう、と。

『論座』9月号、『PRESIDENT』8.29号 - suneoHairWaxでも触れた座談会で、

西村 Plan→Do→Seeのサイクルですね。あとは取捨選択でしょうか。例えば、コンプライアンス(法令順守)にこだわらずに、ノリでつくってみる。大企業の場合、始める前に法務部と相談するし、スタート後もカスタマーサービスが必要になりますよね。
小林 検討の段階でつぶさずに、とりあえずスタートしてみて、あとでどうするか考える。アップル的な企業カルチャーですね。あの事業規模で、iTunesに、(著作権関係の問題整理を飛び越えて)いきなりポッドキャスティング対応させたりする点は、他企業とは違いますね。
遠藤 フットワークの軽さですね。
西村 そうだと思います。とりあえず法務リスクや消費者リスクは後回しにして、やりたいことを先にやっちゃえ、という。

と述べられているように、どうやら「法は(現実の)後からついてくる」の精神がAppleらしさ、らしい。それは法社会学の見解とも一致する(一部の法学とは一致しない。みんなが法を守ってくれなきゃ社会秩序は崩壊するとか、そんな感じ)。

冒頭で、Apple方式は他の方式に比べて消費者寄りに見えるのに、なぜか消費者の不満が高まる、と述べた。そのヒントは、Appleに対する「期待」水準にあるのかもしれない、と今日思った。