「茶の湯」『落語百選』(秋)

「目黒のさんま」「寿限無」「時そば」「猫怪談」など、有名落語が網羅されているお得な一冊(四季に分かれていて、全4巻で100話の落語が読める)。

落語百選 秋 (ちくま文庫)

落語百選 秋 (ちくま文庫)

茶の湯」はドラマ「タイガー&ドラゴン」第3話の元ネタになったようだ(ぼくはこのドラマを一度も観たことがない。クドカン嫌いだからというのもあるけれど、そもそもテレビをあまりみない)。
なにひとつ道楽がなかった大家の主人が、隠居するにあたってなにか「風流な遊び」をしようと、小僧に「茶の湯」に使う粉を買いに行かせる。小僧が買ってきたのは青キナコとムクの皮。ご隠居と小僧は茶の湯の作法も流儀もまったく知らず、おぼろげな記憶をたよりにオリジナルの茶の湯を4,5日続け、あげく腹を下す。
ご隠居はオリジナル茶の湯に近所から客を呼ぼうとするが、招かれた客達の誰一人として茶の湯の作法など知るものはいない。誰もそのルールを知らない茶の湯というゲームをめぐって、滑稽な「反応に連鎖する反応」は続く……
宮台真司の言う「吉幾造問題」は、この「茶の湯」のバリエーションではないかとぼくは踏んでいるのだが(宮台氏がいうところによると、ウィンナーコーヒーをめぐる吉幾造問題は、吉幾造が上京したときのエピソードであるが、志村けんがラジオで話していた志村の自身のエピソードであるという説を聞いた。落語に造詣が深いのは志村の方であるように思えるし、ウィンナーコーヒー・エピソードは志村のネタではないかと思われる)、「茶の湯」は非常に複雑なテクストだ。
編者の麻生芳伸は《「落語」から見た〈風流〉の実態、〈風流〉に対する痛烈な反抗(レジスタンス)がこめられた一篇》と「茶の湯」を評している(「反抗」と書いて「レジスタンス」とルビを振るのがポイントだ)。たしかにそのような読みも可能かもしれない。とりすましたスノビズムに対する「庶民」の観点からの反抗・批判、というスタンスを「落語」の真骨頂とみなして賛美する態度は、まさに江戸スノビズムのありそうな姿だ(「スタジオボイスのような」「80年代的」「記号的戯れ」を「それってスノッブ!」とあげつらって自分はスノビズムから逃れられていると観念することが、80年代型スノビズムの正体だったことと同型である)。
[吉幾造問題的含意については後日]