漫☆画太郎『わらってごらん』(集英社)

本書の画期的なところは、漫氏の作品形成を成す原点であるメディア−−すなわちコピー機−−がいっさい使用されていない点である。
わたしは、漫氏の最高傑作は『樹海少年zoo1』であると考えている。そこには彼の使用してきた技術のすべてがある−−ということはすなわち何も無い、ということだが−−からだ。コピー機の使用による反復、まったく先のことを考えていないストーリーともいえないストーリーの展開(がないのだが)、面白くもなんともないギャグを描く渾身の筆圧、などが、彼がアーキテクト技術ではなくエンジニアリング技術の作家であることを示している。フランドルのファン・アイク達が油彩画の技法を開発したことで絵画の表現が拡張したように、漫氏は、コピー機の使用によってオリジナルとコピーの差異をシミュラクルへと止揚することなく、すべてがコピーであるような(実際コピーなのだが)表現技法によって、なにも拡張しなかった。
おそらくそこですべての工学技術を使い果たしたことが、全ページ手描き、という、初の試みを彼に課したに違いない。しかし、どうもAdobeイラストレータあたりを使用してるくさいページがあるのだが、気のせいだろうか。