落合恵美子『21世紀家族へ』[第3版](ゆうひかく選書)

2004年に第3版が出た。初版が1994年、第2版が1997年。ここでは主に第2版との読み比べをしていく。

21世紀家族へ―家族の戦後体制の見かた・超えかた
落合 恵美子

発売日 2004/04
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「21世紀家族へ」を読んで

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第三版への序文

  • アジア6地域で、結婚・出産退職して子どもが育つと再就職する、いわゆるM字型就労のパターンを示すのは、韓国と日本だけ。
    • タイや中国では女性も男性と同じく高齢期の入り口まで高い就業率を維持する
    • シンガポールや台湾では子どもが幼い時期は共働きを続け、学校が忙しくなるころにしだいに母親が仕事をやめていく。


タイや中国の産業構造は?(第一次産業従事者率との関係)

  • 本書は戦後日本家族変動論の試み
  • 「団結力が強く弱者に優しいアジア家族」という神話はオリエンタリズムにすぎない
    • 人口学的条件=人口ボーナス
  • 本書の理論的焦点は二つ。
    • 「近代家族」という概念。
      • 家族愛の絆で結ばれ
      • プライバシーを重んじ
      • 夫が稼ぎ手で妻は主婦と性別分業し
      • 子どもに対して強い愛情と教育関心を注ぐ
    • 人口学的条件への注目
      • 家族研究やライフコース研究の原理論は人口学であるべきだ
      • 人口転換と「第二の」人口転換に挟まれた時代の家族が「近代家族」であった
  • 以下再検討事項
  • 核家族化仮説の当否(第4章)
    • 核家族化」が起きたというのが戦後日本家族の変化についての定説。
      • 森岡清美:直系家族制から夫婦家族制への転換(世帯形成規範の変化)
      • 原田尚、伊藤達也、落合恵美子:核家族率の上昇は人口学的条件によるもの。直系家族制的世帯形成規範に決定的な変容は起こらなかった。
      • 廣嶋清志、盛山和夫:直系家族制規範が高度成長期に変容した。
      • 加藤彰彦:結婚直後の同居率はコーホートが若いほど低下しているが、若いコーホートでは結婚後数年が経つと同居率が上昇する傾向が顕著で、結婚後15年目くらいになるとどのコーホートでも30パーセントほどの親との同居率に収束する。=直系家族制規範は維持されているが、一時別居型のパターンに変容した
    • ピーター・ラスレットの伝統的大家族の否定は西ヨーロッパにしか妥当しない。
  • 主婦化仮説(戦後に日本女性は主婦になった)
    • 主婦化は戦前からはじまっていた
      • 岡本英雄:若いコーホートの女性ほどM字の底が深くなる。
      • 田中重人:産業構造の転換すなわち農業を含む自営層の縮小による主婦化は見せかけの主婦化。「職場進出説」。
      • 落合恵美子:産業構造の転換が主婦化をもたらしたこと、雇用労働力率は上昇していることについては齟齬はない。が、社会全体での主婦の増加の歴史的重要性を指摘する本書とは別の理論的課題。
    • 主婦化の原因については結論なし:職場と家庭の分離、人口学的理由、「育児=愛情=女性」規範、保育所不足、通勤時間の長さ、核家族化など。
  • 「家族の戦後体制」は1975年に終わったか?
    • 女性は脱主婦化し、
    • 再生産平等主義は崩壊し、
    • 「人口ボーナス」の時代も去った
      • 女性の脱主婦化はほとんど進まない
      • 岩井八郎:「日本はこの四半世紀の間、例外的に変化の乏しい社会であった」
      • 原因:石油危機以降もバブル崩壊まで日本は経済的繁栄を続けたこと
    • しかし、すでに人口学的条件は失われ、
    • 脱主婦化の遅れは、結婚のコストを高めることにより、晩婚化とそれによる出生率低下、すなわち再生産平等主義の崩壊を加速
      • OECD諸国を比較すると、出産・育児期の女性の労働力率が高い国ほど出生率が高いという正の相関が見られる
  • 子育て支援の近隣ネットワーク」から「母親による育児の限界」へ



以下個人的検討

  • そもそも「マクロな」統計データからみえることが、現実【である】といえる根拠は何なのか。たしかに日本では「諸要因から」変化に乏しく、M字型就労は「現実」としてある。「諸変数」を操作すれば、「諸要因」が「現実」としてみえる。しかしそれ以上のことが「現実」として見えるとは思えない(規範など)。統計データを「統計データという現実」以上のものとしてみるべきではないのではないか。
  • そもそも「主婦化」を被説明変数におくこと自体がバイアスであると考えられないか。職場と家庭の分離・人口学的理由・「育児=愛情=女性」規範・保育所不足・通勤時間の長さ・核家族化……などが説明変数で「主婦化」が被説明変数、なのではなく、これらの「諸器官」が「構造的ドリフト」によって共進化(あるいは共適応)しているだけではないのか。


たしかに、私たちは自分の存在のうちに、独特なかたちで「時間性」を抱え込んでいます。そして、そのことで、狭い意味での自分を超えたもの、自分ではないものがやって来るのを可能にしています。……あるいは、私たちの身体に、人類の身体がたどったさまざまな時間の流れの痕跡を見て取ることができるでしょう。さまざまな器官の発達は、たとえば脳と呼吸器官とでは、異なった時間の流れのなかで起こったはずです。……時間が、到来するものが取る形式であるとして、このように異なった時間のさまざまな流れを統一するような「時間性」があるのでしょうか。
北川東子『ハイデガー』

↓関連情報:

  • [news]働く既婚女性多い地域ほど出生率高い…政府調査で判明YOMIURI ON-LINE(8/17)


会議によると、2000年国勢調査で、25歳から34歳の既婚女性のうち、調査を実施した同年9月に「少しでも働いた」と答えた人の割合(労働力率)は全国平均で44・1%。北陸の59・5%が最も高く、東北、四国、中国、九州(沖縄県除く)が続いた。低いのは近畿36・7%、北海道41・1%などだった。

1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、2001年人口動態統計で全国平均1・33。東北が最高の1・48で、以下は九州、中国、北陸の順。南関東、北海道、近畿は全国平均を下回った。

この結果から、「既婚女性の労働力率が高い地域は出生率が高く、労働力率が低い地域は出生率が低い」という傾向を打出すのは、少々雑ではないか?ここからある一定のイメージ、*1が湧きかねないと思うのは、私だけ?恣意的に思える。

また、男女共同参画会議は、この今回の調査に対して「自宅から職場への通勤時間・距離や同居家族の構成、保育施設の充実度などが影響しているのではないか」と見ているというのだが、既婚女性が働く理由を働きやすさのみに目を向けているというのも視点不足であるのではないだろうか。子どもがいてお金が必要だから働く、農家の場合なら家族従業員だから当然働く、ということも大いにあることだ、むしろこの方が多いのではないか?(といろいろバイトをやってきたが、既婚女性の働き方を見てそのように思う。)

とりあえずこのような結果に対して何を言っても意味なしなので、今後の詳しい調査研究に期待します。


*1:例えば、ここで述べられている「労働」というもの、企業で、一般職や管理職として雇用されている女性のイメージを持たせる。労働の形ごとに分析して欲しい。きっと、既婚労働者における出生率を高めているのはパート労働や家族労働をして言う人だと思うから。また、このように女性の労働をひとくくりにたデータを出すということは、女性の就労を推進する、支援することが少子社会において必須であるという結論を出し、企業における雇用環境・条件の向上につなげようとしているのだろう、と思ってしまう。まったく、このデータの意味をいろいろ考えてしまうわ。

プロローグ 20世紀家族からの出発

  • 戦後へのカーテンコール
    • 「戦後」はしばしば急激な変化の時代として語られてきたが、むしろ、ある一定期間安定した構造を保った時代として、いうなれば一つの社会体制として語ることができるのではないか、
    • その前後の、いわば構造の出現と変容の時期と区別することができるのではないか、
  • 家族危機論をこえて
    • 家族危機論の根拠
      • 経済企画庁国民生活局が発表してきた国民生活指標
        • マイナス指標:「少年非行発生率」「小中学校の長期欠席児童・生徒割合」「独居老人数」
        • しかもその独居老人数という指標を国際比較にも用いたことで、成人した娘・息子は原則的に親と別居する慣習の欧米の家庭生活が低く評価され、日本の家族は危機にあるが欧米に比べればまだまだ健康であるなどという見当違いの「常識」がまかり通る
      • 国民生活指標は1992年から大幅改訂
    • 必要なのは扇情的な家族危機論ではなく、冷静な家族変動論
  • 本書の構成
    • テーマは戦後日本の家族変動論
    • 「家族の戦後体制」という考えかたを提案



山田昌弘の元ネタはこの国際比較だろうか。

第三章 二人っ子革命

58ページの表がわからん。「中絶も避妊もなかったとしたら有り得たはずの妊娠100件が実際にはどのような結末に終わったかを理論的に推計したもの」らしいのだが。避妊しなかったら妊娠していたであろう率???わ、わからない・・・・・・・(セックスの数を数えたのだろうか)

出生 人工妊娠中絶 避妊
1955 44.9 37.4 17.7
1960 38.8 31.4 29.8
1965 38.2 19.8 42.0
1970 38.3 16.9 44.3
出所は村松稔「近代日本における人工妊娠中絶」IUSSP・IRCJSワークショップ「アジア史における中絶・嬰児殺・遺棄」(1994年、京都)報告より。

第四章 核家族化の真相

戦後一貫して核家族化した(家から核家族へ)というお話は、人口学的にはウソで、「核家族世帯」は増えたけれど、「拡大家族世帯」は数としては横ばい。全世帯に占める「核家族率」もほぼ横ばい。なぜか。「多産少死」の人口学的世代のきょうだい数が多いから。その他いろいろ書いてある。
で、最後に、「……日本の文化的特殊性と言われてきたことはかなりの程度、人口学的に説明できてしまうことがわかります。文化はもちろん重要ですが、他の要因で解明できるのに、すぐに文化を持ち出してあいまいにしてしまう論法はいただけません」とな。
まーようするにあいかわらず社会現象のwhyを問うスタイルであるからして、〈文化要因論〉に〈人口学的要因論〉をぶつけてみても、それは〈文化要因論〉にまったく同じ説明上の地位を提供してしまうことになるわけで、それっていいことなのか?という疑問がひとつと、とはいってもなぜだか知らぬが〈人口学的要因論〉の与える「なるほど感」のほうが優位にあるように見えなくもない、と思わせるのはいかなる事情によるのだろうか?ということを思いまちた。