使用許諾契約書とかデP削除とか。

ニコニコ動画から、あの有名なデPの動画が一斉削除された件について、あちこちでたくさん記事が書かれているのだけど、↑の記事のはてなブックマークに、

ようするに「初音ミク」って名前もしくはキャラ絵を使った上で「公序良俗に反」してたら駄目ってことでしょ(二次創作の範囲になるから)?DTMソフトとして使ってる分にはなにやろうと自由に決まってるじゃん。

って書いたんだけど、確認するために「使用許諾契約」をもう一度読み直してみた(いったい何度読んだのだろうか……こんなに繰り返し「ソフトウェアの契約書」を読み返すとか、無いだろ……JK……ソフト会社で会社員してた時代よりも読んでるよ……)。
それで、(ぼくはいまだにこのソフトの正式名称知らないんだけど……「初音ミク」でいいの?)このソフトに添付されている「使用許諾契約」には二種類ありまして、ひとつは「ソフトウェア使用許諾契約書」(以下「ソフト契約」)で、もうひとつが「VOCALOIDライブラリ使用許諾契約書」(以下「ライブラリ契約書」)。前者はYAMAHAとの、後者はクリプトンとの契約になっている。
はてなブックマークコメントでぼくが念頭においていたのは、以下の部分。「ライブラリ契約書」より:

E. コンテンツ
本製品に含まれる全てのコンテンツ(音声、画像、文章、ビデオを含む)の著作権はオリジナル・コンテンツ著作者に帰属し、著作権法によって保護されています。本契約は、そのようなコンテンツに関する本契約書に定められている以外の権利をお客様に許諾するものではありません。

↑これは、いわゆる「ミク絵」はKEIさんの著作物だから勝手に使っちゃ駄目よ(二次創作文化にはある程度寛容ではあるけどね。ただし「初音ミク」という名称は登録商標だから、KEIさんであっても勝手に使っちゃ駄目だけどね)。という意味だと受け取っていた。*1
それは……間違ってないよね?
いいんだよね?(心配だなあ……)

それと、ぼくが何度も読み返している、以下の部分。同じく「ライブラリ契約書」より:

D. 合成音声使用に関する制限
(d) 合成音声によって楽曲のリードボーカル・パートの大部分が構成されており、"歌手"として合成音声がメインの「アーティスト」にクレジットされている録音物や、人間ではなく機械、テクノロジーVOCALOID、本VOCALOID製品のタイトル、"バーチャル・シンガー"、"バーチャル・アーティスト"といった類のクレジットのある録音物を商用目的でリリースする場合。但し、実在する人間がその「アーティスト」にクレジットされている作品内での合成音声の使用は、追加使用許諾を取得することなく本契約の下で許可されています。

↑これは、アーティスト名や曲名に「初音ミク」って入れちゃ駄目だよ。入れたら「追加使用許諾」が必要だよ。っていう意味だよね。
例のドワンゴ着うた配信事件は、ドワンゴがここの部分を誤読して、「初音ミク」ってソフトを使った曲を商用利用する場合は、全部「追加使用許諾」が必要だ(ソフト使って曲を作ったアーティストも)、と勘違いした。
だからクリプトンと契約しようとした(事態を複雑にしたのは、「初音ミク」って名前をクレジットに入れなかったら売れないから、ドワンゴとしては入れたい。そうすると当然「追加使用許諾」が【そもそも】必要だった。という点)。
で、クリプトン側は【契約書に書いてある通りの】「追加」許諾契約をドワンゴが結ぼうとしていると考え、「feat.初音ミク」って入れてもOKですよ(アーティストさん=曲の著作権者との契約は、うちとはなんの関係もないのでそれはそっちでやってね、言うまでもないことだから言わないけど)。と回答した。
ドワンゴは、【契約書の誤読】にもとづいてしまっているから、「曲の著作権者もクリプトンから『追加使用許諾』をもらっていないと駄目」と考え、「だからクリプトンはわざわざ仲介立てて、【初音ミクを使ったすべてのコンテンツに関する許諾契約】を行っているんだろうな」と考えた。「クリプトンが全権利を握っているんだから、うちはクリプトンからオーケーが出れば、それで全部解決」と。
……ってのが、例の件の流れだと思う。知らないけど。最後グダグダになって内実知らされてないから。


どうでもいい方向に話逸れた。



ああ、それで、なんでこの項目をぼくが何度も読み返しているかというと、
曲名・アーティスト名に「初音ミク」とか「Vocaloid」って入れたら駄目
という部分が重要だと思ったから。そりゃ商標使ってんだから、アウトだわな。
で、ぼくはこのソフト使って曲作る前に、まず「アーティスト名」を考えた。まあ、本名使ってもよかったんだけど、本名使って普段それまでにやっていた音楽活動とは別プロジェクトで何かやってみたい、というのがあったので。
「別プロジェクト」にする動機づけは、もちろんVocaloidというソフト音源に刺激を受けたこと。
ぼくの中でのVocaloidの位置づけは、非常に奇妙な音声を発するソフトシンセサイザーで、それ以上でも以下でもない。しかしこんなに奇妙な楽器は、そうそうない。これはすごい。よし、808 STATEみたいに、楽器名をアーティスト名に入れよう……というわけで、アーティスト名は"Miku-flo"になった。これなら「初音ミク」も「Vocaloid」も入ってないし、ギリギリセーフだろ。と考えた。
(あちこちで「Miku-floて、名前がダサすぎだろ」って意見を目にするけど……いや、M-floはディスコで、フィリーソウルで、いいんだってヴぁ!……まあ、ぼくも元カノが教えてくれるまで鼻にもひっかけてなかったけど……)

それでまあ、ニコニコ動画は、曲に対する反応をみるのによさそうな場所だし(あとで「悪い場所」だと気付くのだけど・笑)、とりあえず曲ができたら最初に公開する場所にするかな。と考えた。
で、ニコニコ向けに、動画には「ミク絵」を使ったり、タイトルに【初音ミク】とか入れたりした(ニコ動でのミク絵使用は黙認状態だったし、それは今後も変わらなさそうだし、タイトルはsmilevideoからいつでも変えられるし。ってことで)。
ぼくのやってるMiku-floプロジェクトは(「ぼくの」って言っているけど、たくさんの音楽家がかかわる、まとめ役なしのプロジェクトのつもりで始めたし、いまでもそのつもりですが)、「全12曲からなるアルバムを最終的に発表する」「セカンド・サマー・オヴ・ラヴ以降のクラブ&レイヴミュージックをVocaloidという21世紀の奇妙な楽器を使って再解釈する」……という程度のコンセプトでやっておるわけです。

ああ、なんかまた話逸れたけど、Miku-floプロジェクトにかんする↑の記述の最後の段落が、あとで、今回一番いいたいことを言うときに、かかわってきます。



話し戻すね。
デPの話。



デPの動画が削除されたのは、結局、(ぼくのこれまでの解釈では)「動画内でミク絵を使って、公序良俗に反する歌詞の音楽を、あたかも初音ミクというキャラクターが歌っているように視聴者に見えるように発表している」という点だけが問題であって、これを、タイトルに「初音ミク」と入れない、動画内でもミク絵を使わない、のであれば、なんの問題も生じないし、生じたとしても、クリプトンが介入する余地はない。……とぼくは思ったのでした。



ところがですよ!



いまさっき契約書見たデスヨ!アキコ女史!



こんなこと書いてありますよ! 「ソフト契約書」より:

3. 合成音声の使用の制限
お客様が公序良俗に反する歌詞を含む合成音声を公開や配布することはどのような方法であっても許されません。

さらに「ライブラリ契約書」より:

D. 合成音声の使用に関する制限
(1) お客様が公序良俗に反する歌詞を含む合成音声を公開又は配布する事は、いかなる場合においても禁じられています。

な、なんだってー!!



ぼくが驚いている理由:

  • [一点目]クリプトンおよびYAMAHAが、「合成音声に『歌詞』が含まれる」と考えている点
  • [二点目]仮に100万歩譲って、合成音声に「歌詞」を含ませることが可能である、と仮定して、それが「許されない」(ソフト開発・販売元が禁止する)という事態が、可能な事態であるとクリプトンおよびYAMAHAが考えている点

一点目。
「ライブラリ契約書」の「定義」によれば、「ライブラリ=オーディオ素材」と「合成音声=オーディオ出力」は区別されます。「オーディオ素材」に著作権があることは当然です。ぼくもクリプトンから発売されているサンプリング素材CDを使ってます。お世話になってます。サンプリング素材CDに著作権があるおかげで、それを購入したぼくが、自分の作成した楽曲内で、自由にそれらの素材を使用することができています。ありがたいことです。
ちょっと驚いたのは、合成(シンセサイズ)後の、「オーディオ出力」の「使用」に制限をかけるような項目が契約書内に記載されていることです。
しかしまあ、「ヴィンテージ物」のシミュレート・ソフト音源(moogとかね)を使って、「moogフレーズ集」みたいなサンプリング素材を商用で売り出したりしたら、それは問題ある気がしないでもない。あ、でも『DTMマガジン』には毎月、ソフトシンセを使ったフレーズ集が付録でついてくるな!あれはどうなんだ!(あれ、「著作権フリー」って書いてあるけど、誤解を招くよね。著作権が存在しない著作物って、日本で〔期限切れを除いて〕ありうるのかね)
これは「ちょっと驚いた」点ね。
すっごく驚いたのは、「歌詞」の件ね。
だって、Vocaloidって、「あたかも人間の声であるかのような音を出すソフトシンセサイザー」であって、「へたすると人間が歌っているかのごとく聴こえてしまう音を発するソフトシンセサイザー」なわけでしょう。
「オーディオ素材」に人間の声つかってんだから、「あたかも…かのごとく」ではなくて、「そのもの」なのでは?……という反論は、ないでしょ。素材に人の声使ってるソフトシンセなんてたくさんあって、それが人間そのものの声と勘違いされたことはたぶんほとんどない。それに、「しかしそれでも、どうやったって本当に人間が歌っているようには聴こえない(錯覚することはできるけど)」というのは、周知の通り(パッケージには「本格的」とか書いてあるけど・笑)。

ヴォーカリストが、メロディにのせて(あるいはのせずに)歌詞を歌う。という場合に、その歌声に「歌詞」が含まれている、という主張に、仮に反論しないでおくとする(いくらでも反論は可能だけど、これは手続き上のハナシ。ヴォーカリストは「歌詞」を知らされ、それに沿って〔あるいは沿うことなく〕歌う、という手続きをとる)。
しかし、Vocaloidはたんにシンセサイズされた音声を発振する(オーディオ出力する)だけであって、「歌詞」が関与する余地がない。YAMAHA開発のVocaloid2エディターには、「歌詞の流し込み」という項目があるが、その「名称」は便宜的なものであって、じっさいに歌詞を流し込むわけではない(「あなたを愛してる」などと入力することはない。1トラック目に「あなあたあおあいしいてえるう」と入力し、1トラック目がリンかレンの場合、子音が聞こえないから2トラック目に補正用にミクライブラリを用意して「・な・た・・・・・し・て・る・」と入力する。これのいったいどこが「歌詞」なのか)。


1000万歩譲って、「でも、動画に歌詞テロップつけたりCDに歌詞カードつけたりしたら、視聴者によっては、『そういう歌詞が』『歌われている』と勘違いする人も出てくるんじゃないの?」という意見に同意したとしよう。しかしそうなると、やはり、当初のぼくの考えの通り、「歌詞テロップなり歌詞カードなりを添付しない」ことで万事解決するのでは?




二点目。まず、ソフトパッケージ「初音ミク」に含まれている、「初音ミク」というキャラクター(ややこしいな)、のイメージコントロール著作権者が行いたい、と考えているのは、理解できる。
しかしこれはやはり、キャラクター名、キャラ絵、およびソフト名の使用制限に留まるべきであって、オーディオ出力にまで関与すべきではないんじゃないか。
ぼくの考えでは、これは「違法な契約」であって、「契約書にそう書いてあるじゃん」という開き直りには、反対したい。つまり、いくら契約書にそのような記載があっても、その記載の部分だけは無効、と考えても差し支えないはずだ。


もちろんぼくがこう考えるのは、このソフトをDTMソフトとして(まず第一義的に)考えているからであって、もしクリプトン&YAMAHAが、
「いいえ、これはDTMソフトではありません。キャラクターパッケージであって、18歳未満でも使用できるエロゲ〔美少女ゲーム〕の一種として、われわれは販売しているのです」
と主張するのであれば、「そうですか」と言わざるをえず、「あーだまされた。金返して欲しい。DTMの雑誌で特集組まれてたし、DTMソフトに強く関連している会社から発売されてたから、てっきりDTMソフトだと思って買っちゃったよ」と泣き寝入りする以外にないけれど。





というあたりで、デP関連のハナシは終わり。言いたいことはここから。
ええと、「公序良俗」のハナシで、「エロ」にまつわる議論しかされてないけど、それ以外の「公序良俗」についてはどうなの?
というのは、上述したように、ぼくは
「セカンド・サマー・オヴ・ラヴ以降のクラブ&レイヴミュージックをVocaloidという21世紀の奇妙な楽器を使って再解釈する」
というコンセプトでこのソフト使っているのね。
つまり、おもいっきし、非合法ドラッグの使用推奨メッセージを、歌詞とか楽曲とか以前に、コンセプトの時点で固めているのですわ。
それって「公序良俗」に反しないんですかね?

いや。もちろん。そもそも1990年以降の音楽でセカンド・サマー・オヴ・ラヴの影響を受けていない音楽って、ポピュラーミュージックの世界では、世界中を見渡しても無限にゼロに近い(あったとしてもSSOLの「解釈」の影響下にある)し、(ビートルズを含めた、ファースト)サマー・オヴ・ラヴの影響下にないポピュラーミュージックがあれば、それは天然記念物ものである。という現状を鑑みれば、「そんな程度のコンセプトが公序良俗に反しているわけもなければ、ドラッグ推奨メッセージを視聴者が受け取る確率も低いはずだ」。と言うことはできますよ。
だけど、たとえばMiku-floの2曲目には、はっきりと「エクスタシー」「CandyFlip*2」という固有名詞が出てくるし、5曲目なんてタイトルが「テオナナカトル」(マジックマッシュルームのこと)ですよ。3曲目はタイトルにも歌詞にもドラッグの固有名は出てこないけど、あきらかにジャンルとしてはアシッド・ハウス(というかアシッド・リヴァイバルというか)で、視聴者に「勧めて」はいないけど、視聴者が「キメて」いることを前提として作られている曲ですよね。







いや……まあ……いいや……どうせニコ動では誰も聴かないし……マイスペの方が反応いいし…………どうでもいい…………







はい、宣伝乙。ってことで。



【追記】えー。宣伝乙、だった割にはぜんぜん再生数に結びつかなかったので少々へこんでおります。マイリスト貼っておくので、ブクマやスターや投げ銭くれるなら再生してくれ!http://www.nicovideo.jp/mylist/3474584


なんという乞食……

*1:それともちろん、サンプリング素材の著作権はクリプトンにあるよ、というのが第一義だけど、それは「A. 許諾」の項目に書かれている。

*2:LSDとMDMAのカクテル。